
もう30年近く家賃を運んでくれたアパート。でも最近は空室が埋まらず、届くのは修繕の見積書と固定資産税の通知書ばかり。
そんなふうに、郵便受けの前でため息をついていませんか。
不動産会社に相談しても「築年数が古いので難しいですね」と言われ、そこで話が止まってしまった方も少なくありません。



結論からお伝えすると、築古アパートが売れない原因は「古いこと」そのものではありません。
- 買い手が銀行からお金を借りられるか
- 収支の計算が合うか
- 土地そのものに価値があるか
この3つのどこかで引っかかっているだけです。
この記事では、公的なデータと売却の相談現場での経験をもとに、あなたのアパートが「まだ十分に売れる築古」なのか「売り方を変えるべき築古」なのかを見分ける方法と、明日から踏み出せる最初の一歩を、分かりやすくお伝えします。
築古アパートが売れない正体は「築年数」ではなく、3つの数字にあります


結論からお伝えします。
築古アパートが売れない本当の理由は、建物が古いことそのものではなく、
- 買い手が融資を受けられない
- 収支の計算が合わない
- 土地の価値が見えていない
という3つの数字の問題です。
逆に言えば、この3つのうちどこが詰まっているのかが分かれば、打つ手は必ず見つかります。



なお、私は宅地建物取引士として不動産売買の実務に携わり、あわせてファイナンシャル・プランナー(AFP)として資金計画や税金のご相談も受けています。
「築古アパート」とは何年からを指すのか──木造22年という一つの目安
はっきりした定義はありませんが、実務では「木造で築20年を超えたあたり」から築古と呼ばれることが多くなります。
その理由は、税金のルールにあります。
国税庁が定める「主な減価償却資産の耐用年数表」では、木造の住宅用建物の法定耐用年数は22年とされています。
これは「建物の価値を22年かけてゼロに近づけていきますよ」という税務上の計算ルールにすぎず、22年経ったら住めなくなるという意味ではまったくありません。
実際、築30年、築40年でも元気に人が住み続けているアパートは全国にいくらでもあります。
ところが困ったことに、多くの金融機関はこの22年という数字を、お金を貸す期間の目安にしています。
「耐用年数が残っている年数まで」しかローンを組ませてくれない銀行が多いため、築25年の木造アパートを買いたい人が現れても、融資期間がほとんど取れず、話が前に進まないのです。



築古が売れないと言われる背景には、まずこの「制度上の壁」があります。
売れない理由を分解すると「融資・収益・土地」の3点に行き着きます
築古アパートが売れないとき、原因はほぼ次の3つのどれかに集約されます。
- 融資
買主が銀行からお金を借りられないと、どんなに良い物件でも買えません。現金を持っている投資家に対象が絞られるため、買い手の数が一気に減ります。 - 収益性
不動産投資家は、家賃収入から経費を引いた手取りが、価格に対して何パーセントになるかで買うかどうかを判断します。空室が多かったり、家賃を下げすぎていたり、これから雨漏りや外壁の大規模修繕にお金がかかりそうだったりすると、その計算が合わなくなります。 - 土地
実は築古アパートで一番大切なのがここです。建物の値段がゼロに近くても、土地に価値があれば「古家付きの土地」として買い手はつきます。逆に、土地の需要が乏しいエリアだと、解体費用の分だけ価格がマイナスに見えてしまい、売却が難しくなります。
ただし注意が必要なのは、この3つを自分の感覚だけで判断してしまうことです。



「うちのアパートはもうダメだろう」と思い込んでいた方の物件が、土地値で計算し直したら想定の倍近い価格になった、というケースを実際に何度も見てきました。
悩み別に見る、いま取るべき方向性
同じ「築古アパートが売れない」でも、置かれた状況によって取るべき道は変わります。
ざっくり整理すると次のようになります。
- 相続で受け継いだアパートで、相続税の納税が控えている方
時間との勝負になります。相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。この場合は買い手を探す期間が読めない仲介よりも、不動産会社が直接買い取る方法のほうが計画を立てやすくなります。 - 空室が増えて持ち出しが続いている方
まず「あと何年持ち続けたら、いくら出ていくのか」を数字にしてみることが先決です。感情ではなく収支で見ると、判断は驚くほど楽になります。 - 建物の老朽化が進み、雨漏りや屋根・外壁の傷みが気になる方
修繕してから売るか、現状のまま売るかの比較が必要です。



この判断については、記事の後半で具体的な考え方をお伝えします。


公的データが教えてくれる、築古アパートを取り巻く今の市場


結論として、いまの市場は「土地の価格は上がり続けている一方で、古い建物と空室は評価されにくくなっている」という、はっきりした二極化の状態にあります。
つまり、築古アパートは建物で勝負するのではなく、土地の価値で勝負する時代になっているということです。
ここでは、国や省庁が公表しているデータを5つ取り上げながら、その中身を見ていきます。
地価は5年連続で上昇──あなたの土地の値段は、静かに上がっているかもしれません
まず驚いていただきたいのが、土地の値段の動きです。
国土交通省の「令和8年地価公示」(2026年3月公表)によると、全国の地価は全用途平均で前年比2.8%の上昇となり、5年連続でプラスとなりました。


住宅地に限っても2.1%の上昇、東京圏の住宅地は4.5%の上昇です。
この数字を、暮らしの風景に置き換えてみます。
毎年春に届く固定資産税の納税通知書を思い出してください。
「税金がじわじわ上がっているな」と感じたことはないでしょうか。
あの感覚の裏側で起きているのが、まさにこの地価上昇です。
税金が上がるのは痛いのですが、裏を返せば、あなたが持っている土地の値段も上がっているということでもあります。
築古アパートのオーナーの方は、つい「建物がボロボロだから価値がない」と考えがちです。
けれども、アパートの価格は「土地の価格+建物の価格」で決まります。
建物の価値がゼロに近づいていても、足元の土地が5年連続で値上がりしているのなら、売却価格全体は思ったほど下がっていない可能性があります。



まずは「建物ではなく土地を見る」。これが築古アパート売却の第一歩です。
不動産価格指数が示す「建物は評価されず、土地は評価される」という現実
もう少し細かく市場を見てみましょう。
国土交通省は「不動産価格指数」という統計を毎月公表しています。
これは2010年の平均を100として、いま不動産がどのくらいの価格水準にあるかを示すものです。


同省の公表データによると、直近の全国の指数は、マンションが200を大きく超える水準まで上がっている一方で、戸建住宅や住宅地は120台にとどまっています。
同じ「不動産」でも、値上がりの度合いがまるで違うのです。
つまり、日本の不動産市場では「土地の値段はしっかり上がる」「建物は年数とともに評価が落ちていく」という傾向がはっきり表れています。
築古アパートの売却で「建物の古さ」を必死にアピールしても報われにくいのは、市場そのものがこういう構造になっているからです。
では、どうすればいいのでしょうか。
答えはシンプルで、査定を依頼するときに「収益物件としての価格」と「土地としての価格」の両方を出してもらうことです。
この2つを並べたときに高いほうが、あなたのアパートの本当の売り出し価格の目安になります。
片方しか計算しない不動産会社に依頼してしまうと、本来の価値を大きく取りこぼす可能性があります。
空き家900万戸、そのうち賃貸用が443万戸──空室が埋まらないのは、あなたのせいではありません
空室に悩んでいる方に、ぜひ知っていただきたいデータがあります。
総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」(2024年公表)によると、全国の空き家は900万2千戸と過去最多になり、空き家率は13.8%と過去最高を記録しました。
そして、その空き家のうち約443万戸、およそ半分が「賃貸用の空き家」です。


7〜8軒に1軒が空き家、という計算になります。
ご自宅の周りを思い浮かべてください。雨戸が閉まったままの家、草が伸びきった庭、募集看板が何年も色あせたままのアパート。
あの風景は、もはや珍しいものではなくなりました。
ここで大事なのは、あなたのアパートに入居者が集まらないのは、管理を怠ったからでも、努力が足りなかったからでもない、ということです。
全国的に賃貸住宅が余っている中で、築年数の経った物件から順に選ばれにくくなっている。
それが実態です。
空室率の高い築古アパートを買主が敬遠するのも、この構造を知っているからにほかなりません。



だからこそ、「入居者を無理に埋めてから売る」よりも、「空室があることを前提に評価してくれる相手を探す」ほうが、結果的に早く、有利に売れることが多いのです。
木造22年の壁が、買い手のローンを止めている
築古アパートが売れない理由として、実務でもっとも頻繁にぶつかるのが融資の問題です。
先ほど触れたとおり、国税庁の耐用年数表で木造アパートの法定耐用年数は22年と決められています。
金融機関の多くは、この法定耐用年数から築年数を引いた「残りの年数」を目安にローン期間を決めます。
たとえば築25年の木造アパートは、この計算だとすでに残りがありません。すると買主は、短期間で返す条件を突きつけられるか、そもそも融資を断られてしまいます。
なお、法定耐用年数を過ぎた中古物件を買った人が使える計算方法として、「法定耐用年数×20%」という簡便法があります。
木造なら22年×20%で4年です。
買主は建物代金をたった4年で費用として処理することになり、税務上の効果は大きい反面、金融機関から見れば「4年で価値がなくなる担保」ということになります。


ここから導かれる結論はひとつです。
築古アパートの買い手は、「銀行から長期のお金を借りたい一般の投資家」ではなく、「現金または独自の資金調達で買える相手」に絞られます。
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つまり、買い手探しの土俵そのものを変える必要があるということだね。
相続登記の義務化と空家法の改正──「持ち続けるコスト」が上がりました
もうひとつ、直近の制度変更を押さえておきましょう。
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。
不動産を相続したことを知った日から3年以内に名義変更(相続登記)をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります。


さらに、2023年12月に施行された改正「空家等対策の推進に関する特別措置法」により、管理が行き届いていない空き家は「管理不全空家」として市区町村から指導・勧告を受ける可能性が出てきました。


勧告を受けると、土地の固定資産税を軽くしてくれる特例(住宅用地特例)が外れ、税額が跳ね上がることがあります。
こうした制度は、決して所有者を追い詰めるためのものではありません。
むしろ「早めに動いた人が得をする」仕組みへの転換だと考えてください。名義を整え、収支を確かめ、方針を決める。



この順番で進めれば、余計な過料も税負担も避けられます。
空室が続いている築古アパートほど、この一歩を早めに踏み出す価値があります。


「売れない」を「売れる」に変える、明日からできる具体的な手順


結論として、築古アパート売却の成否は、売り出す前の「準備」でほぼ決まります。
特別な交渉術は要りません。
必要なのは、3つの書類をそろえ、2種類の査定を取り、出口戦略を選ぶ。
この順番どおりに進めるだけです。ここでは、実際に何をどう動かせばよいのかを具体的にお伝えします。
まず、3つの書類をそろえる(所要時間はあわせて30分ほど)
最初にやるべきことは、物件の「身元」をはっきりさせることです。
必要なものは3つだけです。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
土地の面積、建物の構造、抵当権が残っているかどうかが分かります。法務局のオンライン申請サービスを使えば、パソコンやスマホから請求でき、手数料は数百円程度。窓口に並ぶ必要はありません。 - 固定資産税の納税通知書
毎年届くあの封筒に入っている「課税明細書」を見ると、土地と建物それぞれの評価額が載っています。土地の評価額を0.7で割ると、おおよその実勢価格の目安がつかめます。 - レントロール(入居状況の一覧)
何号室にいくらの家賃で誰が入っているか、いつから空室かをまとめた表です。管理会社に頼めば作ってもらえますし、手書きのメモでもかまいません。買主が真っ先に見るのはこの表です。
注意点として、名義がお父さまやお母さまのままになっている場合は、先に相続登記を済ませる必要があります。
名義が故人のままでは売買契約を結べません。
司法書士に依頼すれば、書類集めから登記まで代行してもらえます。
査定は「収益」と「土地値」の2本立てで出してもらう
次に査定です。ここが築古アパート売却の最大の分かれ道になります。
不動産会社が収益物件を評価するとき、主に2つの計算方法を使います。
- 収益還元法
「年間の家賃収入から経費を引いた金額を、投資家が期待する利回りで割る」やり方です。 - 土地値の考え方
土地の相場から解体費用を差し引いて「更地にしたらいくらか」を見る
築古アパートは、空室が多いと収益還元法の数字がしぼんでしまいます。
一方で、地価が上がっているエリアなら土地値のほうが高く出ることがよくあります。



相談現場では、収益還元法で1,200万円だった物件が、土地値で計算すると2,000万円を超えていた、というケースも珍しくありません。
ですから、査定を依頼するときには「収益還元法と土地値、両方の金額を出してください」と一言お願いしてください。この一言だけで、手取りが数百万円変わることがあります。
査定は複数の不動産会社に依頼し、金額だけでなく「なぜその金額になるのか」の説明が納得できるかどうかで選ぶのがコツです。



なお、最近は担当者が自宅まで訪問して、物件を見ながら説明してくれる不動産会社も増えています。
その場で契約を迫られることはなく、「話を聞くだけ」でも構いませんし、ご家族に同席してもらうこともできます。
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何度も店舗に足を運ぶのが体力的に大変な方には、こうした訪問対応のある会社を選ぶと負担が軽くなるよ。
現状のまま売る・直して売る・解体して売る──3つの出口戦略の選び方
査定額が見えたら、次は出口戦略を決めます。選択肢は大きく3つです。
- 現状のまま売る方法
リフォームも片付けもせず、残置物があってもそのまま売却します。
手間もお金もかからず、最短で現金化できるのが最大のメリットです。
買主が投資家や不動産会社であれば、修繕は自分たちの計画で行うため、かえって手を加えていないほうが喜ばれることも多くあります。 - リフォームやリノベーションをしてから売る方法
空室を埋めて満室に近づけてから売れば、収益還元法の評価が上がり、価格も上がります。
ただし注意が必要です。
数百万円かけて外壁や屋根、水回りを直しても、売却価格がその費用分そのまま上がるとは限りません。
かけた費用の回収ができるかどうか、事前にシミュレーションしてから決めてください。 - 解体して更地として売る方法
木造アパートの解体費用は、おおむね坪あたり3万〜6万円程度が目安で、一棟で数百万円かかることもあります。
ただし、この坪単価は地域や建物の規模、重機が入れるかどうか、庭木やブロック塀などの付帯工事があるかどうかで大きく変わります。
必ず解体業者から見積もりを取り、実際の金額を確かめてください。
さらに大切な注意点があります。
建物を壊して更地にすると、住宅用地特例が外れ、土地の固定資産税が最大で6倍になる可能性があります。「解体したけれど売れない」という状態が一番つらいので、解体は買主が決まってから、または買主と相談してから行うのが鉄則です。
仲介と買取、どちらを選ぶ?「時間」と「手取り」で決めます
売り方には、大きく分けて仲介と買取の2つがあります。
- 仲介
不動産会社に買主を探してもらう方法です。市場価格に近い金額で売れる可能性がある反面、いつ売れるかは分かりません。
築古アパートの場合、買い手が融資を使えないという事情から、半年、1年と時間がかかることもあります。
売れ残ると値下げを重ねることになり、結果的に安く手放してしまうケースも見てきました。また、仲介では成約時に仲介手数料が発生します。 - 買取
不動産会社が直接買主になる方法です。
買い手を探す時間が要らないため、相談から2週間程度で引き渡しと入金まで進むこともあります。
仲介手数料がかからず、契約不適合責任(売った後に雨漏りやシロアリなどの欠陥が見つかったとき、売主が負う責任のこと)を免除してもらえる契約が多いのも特徴です。古い建物や残置物があっても、現状のまま買い取ってもらえます。
判断の目安はこうです。
時間に余裕があり、少しでも高くを優先するなら仲介。
相続税の納税期限が迫っている、持ち出しを一日でも早く止めたい、面倒な手続きを避けたいなら買取。



どちらが正しいということはなく、あなたの事情に合うほうを選べばよいのです。
入居者がいるままでも売れます──立ち退き交渉は必要ありません
「入居者がいるから売れないのでは」と心配される方がとても多いのですが、これは誤解です。
入居者がいる状態のまま売買することを、実務では「オーナーチェンジ」と呼びます。
買主は、家賃が入ってくる状態で物件を引き継げるため、むしろ歓迎されることのほうが多いのです。
大家さんの立場は、そのまま新しい所有者へ引き継がれます。
入居者に出ていってもらう必要はありませんし、立ち退き交渉も、立退料の負担も不要です。
入居者への通知は、所有者が変わった後に、家賃の振込先変更をお知らせすれば足ります。
ただし例外もあります。
更地にして売る前提の場合は、入居者に退去してもらう必要があり、立ち退き交渉や立退料が発生します。
時間も費用もかかるため、まずは「入居者がいるまま売る」方法を検討してみてください。
なお、遠方にお住まいで何度も現地に行けない方や、お仕事で時間が取りにくい方のために、契約手続きの多くをオンラインで進められる不動産会社も増えています。



書類のやりとりで疲れきってしまう前に、そうした対応が可能かどうかを最初に確認しておくと安心です。


事例で見る、築古アパートが売れた人・苦労した人の分かれ道


ここでは、実際の相談現場でよくある2つのケースを紹介します。
結論を先にお伝えすると、成否を分けたのは物件の古さではなく、「どの土俵で戦うかを早く決められたかどうか」でした。
ご自身の状況と重ねながら読んでみてください。
事例1:相続した築38年のアパート、納税期限までに現金化できた62歳・元会社員のケース
- 田村さん(仮名・62歳・元会社員・奥さまと二人暮らし)
- 半年前にお父さまを亡くし、郊外の駅からバスで15分ほどの場所にある木造2階建てのアパート(築38年・全6室)を相続
- 相続時点で入居者は2室のみ。残り4室は、3年以上空いたまま
きっかけは、税理士との面談でした。
「相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です」と言われ、カレンダーを見て青ざめたそうです。
手元の預金だけでは納税額に届きません。アパートを売って現金をつくる必要がありました。



10か月って、あっという間ですよね。
しかも空室だらけの築38年ですよ。売れるんでしょうか。
最初にお会いしたとき、田村さんはそう漏らしました。
田村さんを悩ませていたのは、時間だけではありませんでした。
地元の不動産会社を2社訪ねたところ、1社からは「うちでは扱えません」と断られ、もう1社からは「まずは満室にしてから売りましょう。リフォームに400万円ほどかかりますが」と提案されたのです。



400万円も出して、それで本当に売れるんですか。
もし売れなかったら、お金だけ消えるじゃないですか。
奥さまも心配そうでした。
「お父さんの残してくれたものだから、大事にしたい気持ちは分かるけど、税金が払えなかったら元も子もないでしょう」。夜、二人で通帳を広げながら何度も話し合ったといいます。
田村さんはまず、方針を決める前に数字を集めることにしました。
- 固定資産税の納税通知書と登記事項証明書を用意
法務局のオンラインサービスから請求し、数日で手元に届きました。 - 収益物件を扱う不動産会社に「収益還元法と土地値、両方で査定してください」と依頼
結果は驚くものでした。
空室だらけの状態で収益還元法を使うと約1,100万円。
ところが土地値で計算すると、解体費用を差し引いても2,300万円を超えていたのです。
駅からは遠いものの、周辺で戸建ての分譲が進んでいるエリアで、土地そのものに需要がありました。
そして最後に、田村さんは仲介ではなく買取を選びました。
理由は明確です。
納税期限まで残り4か月。
買い手が見つかるかどうか分からない仲介では、間に合わないリスクがあったからです。
買取であれば、残置物もそのまま、入居中の2室もそのままの状態で引き渡せます。
契約から引き渡しまで、およそ3週間。田村さんは納税期限に余裕を持って間に合いました。



一番の収穫は、『建物じゃなくて土地を見ればいい』と教えてもらったことです。
私はずっと、ボロボロの建物のことばかり考えていました。
土地の値段を計算してもらって初めて、自分の物件の本当の価値が分かったんです。
リフォームに400万円かけていたら、たぶん今も売れずに悩んでいたと思います。
事例2:仲介にこだわり、1年半売れなかった築42年アパートのケース
- 松井さん(仮名・45歳・パートタイムで働く女性)
- ご主人の実家から引き継いだ、地方都市の築42年・全8室の木造アパートを所有
- 入居者は3室。空室が5室、家賃も相場より低い状態が続く
売却を考え始めたのは、台所の窓から見えるアパートの屋根に、青いブルーシートがかかった日でした。
台風で瓦が飛び、雨漏りが発生したのです。
修繕の見積もりは180万円。



もう限界かもしれない。
松井さんは、そのときはじめて売却という言葉を口にしたそうです。
ところが、松井さんは「少しでも高く売りたい」という思いから、仲介一本で進める道を選びました。
相談した不動産会社からは「今の状態では厳しいので、まず空室を埋めましょう」と言われ、内装のリフォームに約250万円を投じます。



せっかくお金をかけたんだから、安売りはしたくないんです。
その気持ちは、痛いほど理解できます。
けれども、市場は思うように動きませんでした。
問い合わせは来るものの、買主が金融機関に融資を申し込むと、築42年の木造という一点で断られてしまうのです。
松井さんは、3か月ごとに価格を下げていきました。3,000万円で売り出し、2,800万円、2,500万円、2,200万円。
値下げのたびに、ご主人と口論になったといいます。
「もっと早く決断していれば」と気づいたのは、売り出しから1年が経ったころでした。
その間も固定資産税は毎年かかり、管理会社への費用も出ていきます。
空室の草刈りや近隣からの苦情対応にも追われました。
最終的に、松井さんは方針を切り替えます。仲介をやめ、収益物件を扱う不動産会社に土地値ベースで買い取ってもらう形を選びました。売却が決まったのは、売り出しから1年半後のことでした。



リフォームの250万円は、結局ほとんど価格に乗りませんでした。
あのお金があれば、もっと早く楽になれたのに。
一番つらかったのは、お金より時間です。
売れない期間ずっと、頭のどこかにアパートのことが引っかかっていて。決まった日は、体が軽くなりました。
この事例から学べることは、はっきりしています。
築古アパートでリフォームをする場合は、必ず「その費用が売却価格に何円乗るのか」を先に確認すること。
そして、仲介で反応がないまま数か月が過ぎたら、早めに買取という選択肢を並べて比べること。
この2点です。
2つの事例から見える、売れる人と売れない人の分かれ目
田村さんと松井さんの違いは、能力でも運でもありません。分かれ目は3つでした。
- 建物ではなく土地で価値を測ったかどうか
- 時間をコストとして計算したかどうか
売れない1年半のあいだに出ていく固定資産税、管理費、修繕費、そして心の負担を金額に置き換えると、値下げして早く売ったほうが手取りが多かった、という逆転は珍しくありません。 - お金をかける前に、その効果を確かめたかどうか



築古アパートは、正しい土俵に上げれば売れます。売れないのは、間違った土俵で戦っているときだけです。


築古アパートの売却でよくある質問
ここでは、相談現場で特によくいただく質問を5つ取り上げます。
どれも短くお答えしますが、いずれもあなたの判断を前に進めるための材料になるはずです。


まとめ|築古アパートの売却は、土地を見た瞬間から動き出します


最後に、この記事の要点を3つに絞ってお伝えします。
- 築古アパートが売れない原因は、築年数そのものではなく「買主が融資を受けられない」「収支が合わない」「土地の価値が見えていない」
この3つのどこが詰まっているかが分かれば、必ず打つ手はあります。 - 国土交通省の地価公示が5年連続で上昇している一方で、総務省の調査では空き家が900万戸を超えている
土地は評価され、古い建物と空室は評価されにくい。
この構造を知っていれば、「建物ではなく土地で勝負する」という戦い方が見えてきます。 - お金と時間をかける前に、必ず数字を確かめる
リフォームに数百万円、解体に数百万円。
その支出が売却価格にいくら乗るのかを先に確認するだけで、事例2のような遠回りは避けられます。
今日、5分でできる最初の一歩
やっていただきたいのはひとつだけです。
固定資産税の納税通知書を探して、同封されている課税明細書を開いてみてください。
そこに書かれている土地の評価額を0.7で割ると、あなたの土地のおおよその実勢価格が見えてきます。
たとえば評価額が1,400万円なら、2,000万円前後が目安です。
その数字を見て「思ったより高いかもしれない」と感じたら、次は査定です。
「収益還元法と土地値、両方で出してください」と伝えるだけで、話は前に進みます。
相続税の納税期限が迫っている方、空室の持ち出しを止めたい方は、買取に対応している不動産会社に相談すると、引き渡しまでの期間が読みやすくなります。
担当者が自宅まで訪問して説明してくれる会社なら、ご家族と一緒に話を聞くこともできますし、何度も出向く負担もありません。
名義がまだ故人のままなら司法書士へ、税金の試算は税理士へ、売却の判断は宅地建物取引士のいる不動産会社へ。ひとりで抱え込まず、専門家の力を借りてください。



築古アパートは、正しい相手に、正しい土俵で見せれば、ちゃんと売れます。

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